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原理・技法・ツール

未踏ジュニアに応募しよう

未踏ジュニア

未踏社団という, IPA未踏事業の修了生を中心につくられた社団法人がある. その未踏社団が2016年から開始したのが未踏ジュニアだ. 未踏ITは24歳まで*1, 未踏Advは年齢制限なしで援助をするが, それでは大学生・大学院生・社会人ばかりが採択されてしまう. そのミスマッチを解消すべく, 未踏ジュニアでは応募時点で17歳までに制限されている.

ぼくは未踏ジュニア(2023)の修了生だ. そんな立場から, 17歳以下の才能ある技術者へ向け, なぜ未踏ジュニアに応募すべきかを伝えたい.

経済的支援

最も言及されるのは, やはり50万円の経済的支援だろう. メンターの承認次第で開発の加速資金として使用可能だ. 本や開発マシン, ハードウェア系のプロジェクトならばパーツに使用したりと, その用途は多様である. 常に金欠がちな未成年にとって強大なアドバンテージとなる.

メンタリング

メンターはプロジェクトの進行を円滑にしてくれる存在だ. ただ, その円滑化能力が素晴らしい. ぼくは個々のメンターが持つ言語化能力や抽象化能力に何度も助けられた. プロジェクトの不明瞭な部分やスケジューリングについて, 極めて高水準なアドバイスを得ることができる. 技術面においては, 下記のようなコミュニティと最適な接続をしてくれる場合がある.

コミュニティとして

金銭よりも価値があるのはコミュニティだ. 未踏ジュニアはIPA未踏と同様に, OB同士のゆるい繋がりがある. メンターは全員IPA未踏の出身者なので, それを起点とする繋がりもある.

未踏の採択者, というのは審査を得て決定された人間である. そのため, 分野を問わず一定以上の技術レベルが保たれたコミュニティに参加することとなる. また, IPAの未踏事業は24年, 未踏ジュニアも9年続いている. 今では各地に散らばって活躍している未踏出身者の, 多様な協力を仰ぐことができるのだ.

これは他のコミュニティにない大きな特徴だろう.

ぼくの場合

今にしてみればかなりフワフワした考えだったが, 何となく応募してみようかな, という気持ちはあった. しかし, 毎年のように面倒くさくなってしまい, 結局のところ存在自体を忘れ応募していなかった.

怠惰な生活を送る18歳になる年, たまたま知り合いから応募締め切り日を伝えられた. 応募締め切り日の2日前だったが, それが自分にとって最適な環境だった. 2日で書けるところまで書いてみようということで, 以前から実装を学んでいた"マイクロカーネルとソフトウェアアーキテクチャを組み合わせたようなテーマ"で提案書を作成した. 文章力は乏しいが, 情熱はあった. ずっと思い描いていた構想を実現するための, またとないチャンスだったからだ.

*2

驚くことに, これは一次審査を通過した. 来る二次審査に備え, プレゼンテーションを急いで作成した. *3 情熱を伝えるため, 原稿の類は一切作らなかった.

採択された. 自分の技術力と情熱には自信があった. そのため, 採択されるだろうと思っていた. それでも, ただただ嬉しかった. 何ひとつ実績がない人間にとっての天啓だった. 採択通知のメールを何度も見返した.

それからはひたすらに楽しかった. 同期と過ごした半年間は, 切磋琢磨という言葉そのものだった. 幾つかある合宿でアイデアを交換しあい, プロジェクトの練度を高めていった.

自分一人ではできない経験を積むことができた. ぼくを低レイヤーの道に誘ってくれた恩人に再開できたし, 目標としていたような未踏OBに相談する機会を得ることができた. *4

経済面での支援は非常に役立った. ずっと欲しかった技術書を買うことができた. *5 開発用のマシンも新調できた.

生存者バイアスで, 採択者の視点から良かった部分を列挙しているだけにしか見えないだろう. でも, 採択されなかったからといってメリットが無いと言い切るには速すぎる.

まず, 書いた提案書は未踏ITへ使い回すことができる. *6 それから, 提案書を書くうえで新たな問題点やアイデアを思い付くことが非常によくある. 詳細をある程度詰めなければならないため, 脳内で無視してしまっていた箇所を再考できるからだ. アイデアを推敲し, 他の支援プログラムに応募するための土台となるだろう.

時間がない, というのは言い訳にならない. 過去採択者のうち, 一日二日で提案書を書き上げて採択された例はいくらでもある.

参考までに, ぼくのプロジェクトと発表動画を貼っておく.

jr.mitou.org

youtu.be

結論

17歳以下で作りたいものがあるリエータよ, 未踏ジュニアの提案書を書いて応募せよ. 応募しなければ絶対に採択されることはないが, 応募さえしてしまえばそこにチャンスが生まれる.

おわび

残念ながら今年度(2024)の募集は終了し, 記事執筆時点で採択者が決定されている. 対象者は来年度(2025)の募集に備え, プロトタイプなどの制作を推奨する.

*1:25歳未満

*2:応募締切日!

*3:後日談 : 石井メンター曰く, 提案書の文章はひどかったが二次審査でできそうだと判断して採択したらしい

*4:hikaliumさん, nutaさん, ぬるぽへさん, るくすさん 本当にありがとうございました!

*5:一般に, 低レイヤーの技術書というものは需要が少ないぶん高価である

*6:cf., よくある質問と回答